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存在を知らされない名著

現代ギリシア語辞典 第3版』(リーベル出版、2004)の著者、川原拓雄氏から以前、「つい先日,例の国原吉之助先生の「古典ラテン語辞典」を入手しました.さすが斯界の第一人者の著作ですばらしいものです」と教えられ、先月日本へ一時帰国したとき、書店で探してみた。

ところが『古典ラテン語辞典』は、神田の三省堂にもなかったし、川越の紀伊国屋にも置かれていなかった。川越の紀伊国屋では、『現代ギリシア語辞典』も、3月に行ったときから同じ棚に同じ本がそのまま置かれたままになっているようだった。

『現代ギリシア語辞典』は、おそらく日本で現代ギリシア語を学ぶ人たちにとって、英雄のような辞書のはずだ。少なくともインターネットで“現代ギリシア語”と入力して検索すると、この辞書はすべての版が検出される。そしてこの辞書が利用者に愛用されていることがわかる。

しかし、この辞書は、書店ではほとんど見かけることができないのである。おそらく、¥18,900 という値段のせいではないかと思うと、残念だ。まあ、値段を下げたところで、現代ギリシア語の学習者が増えるわけではないので、売り上げは伸びないだろう。また、この極限とも言える値段でも、必要な人は買うから、その点でも値段を下げる意味はない。買う人は、高い高いと文句を言いつつも、買うのだ。

しかし、この値段のせいなのか、大型書店にすら置かれていないというのは、とても残念なことだ。なぜなら、読者がこの辞書に触れる機会が奪われているからだ。まあ、最近はインターネットで書籍の情報を得る人が多いのだろうけれど、本屋でしか本を探さない人は、たとえ現代ギリシア語を学んでいても、『現代ギリシア語辞典』に触れる機会はほとんどない。

私も、川原氏が紹介してくださった『古典ラテン語辞典』の実物を見ることができなかった。川原氏も、「ご他聞にもれず本辞典も大変高価ですから,売り上げはほとんど期待できないでしょう.まことに辞書編纂者とは報われないものです」と嘆いておられるように、¥36,750 という高額のため、学習者がしり込みするには十分である。しかし、このことでこの本の存在が読者に知らされないというのはとても残念なことだ。

昔は本がとても高価なものだったらしい。しかし、現在は小遣いで本が買える、恵まれた世の中になった。しかし、それでも昔ながらの高価な書物は存在する。読者は安い本だけを探すのではなく、もし必要ならば、そのような高価な本を、貯金をしてでも手に入れようとする意欲がほしい。

2年前、韓国の教育放送でラジオ日本語講座のゲスト出演をしていたとき、放送局の掲示板に「安くていい辞書があったら教えてください」と書き込まれたので、「辞書を選ぶときは、安さを求めるよりもその質を求めるべきで、そのためには一食抜いて本代に当てても惜しくはないはずです」と返事を書いたら、けっこう賛同してくれる人がいた。日本ではどうだろうか。

ちなみに私は『羅和辞典』(研究社、1966)を持っている。これも高いことは高いけれど、¥4,935 と比較的手ごろな値段に収まっている。まだ本格的な学習もしていないし、私が辞書を片手に解読を試みるのはキリスト教文献以外にほとんどないので、キリスト教の語彙が収録されているこの辞書にはとても重宝している。
by ijustat | 2005-08-08 14:43 | Language Learning


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