통문관

1934年創業というから、韓国の現存する古本屋の中で、おそらく最も古い店に違いない。一般の古本屋とは異なり、古書や稀覯本を中心に扱っている。

c0019613_428697.jpgこの店の評判については以前から聞いていたけれど、廉価な一般書籍の古本でなく、高価な稀覯図書を扱っているので、何となく敷居が高く感じられた。しかし、昨日(2010年2月1日)は意を決して訪問してみた。인사동の狭い通りにあるので、車を止める余裕はないだろうと思い、電車に乗って行った。

11時50分頃到着した。広いガラスの窓の向こう側は、古書の背文字で覆われていて、ガラスの扉にも、簡札や開化期の新聞、舞踊家최승희(崔承喜:1911~1969)の艶かしい写真などが貼られている。それらだけでもけっこう見ものだ。

扉を引いて中に入ると、天井まで続く高い本棚に挟まれた通路があり、その奥は主人の机だ。主人と目が合ったので、挨拶した。入り口から珍しい本が棚にぎっしりと詰まっている。たいていの本はその歴史的位置が分からないけれど、「독닙신문」のように、私にも何だか分かるものもある。

中央通路の本をゆっくりと見ていると、玄関の扉が開き、3人組の客が入ってきた。日本人だった。韓国の古い書画を収録した本を探しているようだった。関西方言の特色があり、「絵」を「エー」と発音していた。しかし、アクセントはあまり強い関西アクセントには感じられなかった。どこの人たちだろうか。

主人の机の所まで到り、その向かいにある書棚を見てみると、河野六郎の朝鮮語学史があった。復刻本だ。値段は200,000원と付いている。買えないことはないけれど、ちょっと負担が多すぎる。でも、買うべきか。

そんなことを考えていたとき、私のすぐ脇で、こちらも2~3人組の客が、本代の支払いをしていた。主人の女性が日本語で話をしていたので、日本人客だということが分かった。なんと、この店に今いる客たちは、全員日本人だ!

主人たちのいる後ろの壁には、明治時代頃の本と思われる古書がぎっしりと並んでいる。視力があまりよくないので、書いてある字が見えない。

そこから左に折れ、奥の書棚に回った。こちらには、古書だけでなく、学術書などもある。韓国文化や芸術などに関する本で、たぶん絶版になったものなのだろう。

一番奥まで行き、反対側の書棚を見ていたとき、主人が私に声をかけた。食事に行かなければならないという。今日は約束があるので今すぐ出なければならず、戻ってくるのも1時半だという。 時計を見ると、ちょうど12時だった。女性の隣に男の人がいる。この人が主人らしい。勘定台にいる女性は、主人の奥さんか。

問い合わせたい本があったけれど、今すぐ出なければならないのでは仕方ないと思い、では本の問い合わせは、また1時間半後に来たときにしようと思った。

店を出ると、通りの脇の空間に車が何台も停まっていた。別に駐車禁止ではないらしい。ならば、今度来るときは、車で来よう。

しばらく店頭に展示されている昔の新聞や写真を眺めたあと、인사동の通りを下って、途中にあった新新園(종로구 인사동 165-1、電話:723-8854)という中華料理屋で5,000원の자장면を食べ、それから時間があったので、영풍문고まで行って本を見た。それからまた통문관に戻ったけれど、1時半になっても主人たちは戻ってこない。

そこで、近所の Crown Bakery(종로구 관훈동 123-4、電話:02-735-1933)というパン屋で、コーヒーを飲みながら、2時まで待ってみることにした。しかし、2時になっても戻ってこなかった。仕方ないから今日は諦めることにして、프레스센터の地下アーケード街にあるという호산방へ行ってみることにした。ところが、行ってみると、호산방は無くなっていた。同じアーケード街の雑貨屋に入って聞いてみると、もうやってませんよ(없어졌어요)という。いつ頃までやってたんですかと尋ねると、もうだいぶ前ですよ(오래됐어요)と言っていた。何と残念なことよ。

また통문관に戻ろうかとも思ったけれど、すっかり疲れてしまっていた。프레스센터の玄関前で、右手に見える電光掲示板を眺めながら、どうしようかと考えていたとき、後ろからプッと遠慮がちにクラクションを鳴らす音が聞こえた。振り向くと、黒塗りの高級車が私が退くのを待っていた。통문관にまた戻る元気もなかったので、そのまま시청駅まで行って、地下鉄に乗った。

久しぶりに歩いたので、すっかり疲れてしまい、家に帰ってから翌日の明け方まで寝込んだ。あとで、地図で歩行距離を測ってみると、たったの4~5キロしか歩いていなかった。以前だったら、歩いたうちに入らない距離だ。

통문관(通文館)の住所は、서울시 종로구 관훈동 147번지。電話は 02-734-4092と、02-732-4355。ウェブサイトは www.tongmunkwan.co.kr

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2010年2月2日。통문관を再度訪れた。昨日は歩き回って疲れてしまったので、今日は車で行った。それに、昼食時間の直前に行くと、昨日のようなことになるので、今日は11時ごろ店へ行った。

車を店の前に止めましたと言うと、主人が、そこに止めていると、ステッカーを貼られる可能性があるので、並木の間に止めた方がいいという。主人が車を止めるのを手伝ってくれた。

まず最初に、探している本を尋ねてみた。次の3冊だ。

 『通文館 책방비화』(이겸노著、民學會、1988)
 『옛책 그 언저리에서』(공진석著、학민사、1991)
 『윤동주 자필 시고전집』(민음사、1999)

やはり、置いてないとのことだった。『通文館 책방비화』にしても、『옛책 그 언저리에서』にしても、古本屋の主人が書いた本で、통문관の主人の話では、大した本ではないのだけれど、現在なかなか手に入りにくくなっているということだ。実際、私も古本屋に関心を持ち始めた去年の晩秋頃からこれらの本を探しているけれど、見つからないのなんの。

私が古本屋の主人が書いた本に関心を持っていることを知って、書誌学に関する著者たちの名前を紙に書いて教えてくれた。まず、고인쇄술に関する著者としては、김두종、안춘근、천혜봉が有名で、안춘근の弟子に当たる윤병태も有名だという。また、현대서지に関しては、하동호が有名とのことだ。門外漢の私には、どの名前も初耳だ。著者の名前を紹介しながら、비깔있는 책들シリーズの『옛책』という本と、『고인쇄』という本を見せてくれた。これらの著者が書いた本だということだ。

それから、本に関する著書のある本屋の主人としては、범우사の윤형두氏、화봉문고の여승구氏がいて、それから최덕교氏の『잡지백년』も有名だそうだ。当時の「잡지」は、現在の雑誌とはおよそ性格の異なるものだったという点に注意した方がいいですよと言われた。それから、김근수氏。

そこまで話を聞いたとき、本を売りに来る客がいた。年は私と同じぐらいで、自信満々に話をしていた。その人の持ってきた本のうち1冊はコピー本だった。彼は自信たっぷりに、それを“영인본(影印本)”と言ったので、主人は、これは“복사본(コピー本)”だと答えていた。ちらりと見ると、表紙は黒のハードカバーで製本されているけれど、昔の木版本の影印本を、湿式のコピー機で複写したものだった。大学の図書館や研究室では、原本が失われてコピー本が残ることが時々あるけれど、傷んだ本を修繕するときに、そのコピー本も製本する。そうすると、中身はただのコピーなのに、表紙だけは立派になる。これは、その手の本だ。

その人が話をしている間、右側の奥の本棚を見た。主人の机に近い棚の上の方に、古い『우리말본』があった。『우리말본』というのは、韓国語学者최현배(崔鉉培:1894~1970)の代表作で、書名の意味は“国文法”、つまり“韓国語文法”ということだ。それ以前の文法研究を集大成し、その後の研究に大きな影響を与えている。1937年に初版が出たあと、1955年に増補改訂版(깁고 고침)、1961年に3訂版(세 번째 고침)、1965年に4訂版(네 번째 고침)が出ている。私が読んだのは1991年の16版で、최현배氏の没後、覚え書きをもとに김계곤氏と허웅氏が改訂したという但書が、1971年5月25日の日付で載っている。あの棚の高いところにあるのが통문관のサイトに出ていたものだとすれば、1945年に刷られたもので、値段は120,000원だ。

自信家氏の話が一段落付いたのを見計らって、『우리말본』を指差し、「あれが1945年に刷られた、120,000원で出している『우리말본』ですか」と尋ねると、1945年ではなくて、1946年だという。1946年の版なら、1955年に改訂版が出る前だから、基本的に初版と同じはずだ。

私は、改訂前の『우리말본』がぜひほしいと思っていたけれど、노마드북で売られている1937年の初版本は、500,000원という高値で、私には負担が大きすぎる。だから、最初の版の重刷したものがほしかった。そのなかで、통문관の120,000원というのは、いちばん安い値段だったのだ。

c0019613_7561359.jpg主人が棚から下ろした『우리말본』を手に取り、開いてみると、縦書きの本文で、紙はすでに中まで茶色に変色し、縁の部分はかなり劣化している。丁寧に扱わないと、壊れてしまいそうだ。それに、製本があまりよくなく、ページによっては印刷が多少傾いている。

奥付を見ると、「최현배 지은 / 우리말본 / 一九四六年四月再版 / 定價二百圓」と書かれていて、初版の発効日が記されていない。発行所は正音社で、住所は「京城市北米倉町九三의二〇」となっている。解放されてすでに8ヶ月も経っているにもかかわらず、通貨名も地名もまだ復旧されていない。植民地時代の歴史に疎い私には、「北米倉町」がどこなのか、見当も付かない。それはともかく、奥付の日にちを確かめたあと、買おうと決めた。

『우리말본』のあった場所の左隣に、玄平孝の『濟州島方言硏究 (資料篇)』があった。あれはこの店のサイトで70,000원の値段が付いているのを見た。話ついでにその本を指差して、あれは以前持っていたのだけれど、大学院生のとき、合同研究室に置いておいたら無くなってしまったという話をした。主人が、あの本は意外に出てこないんですよと言った。それを受けて私も、インターネットで見たけれど、この店のサイトにあるのが唯一だと言った。買い戻したくはあるけれど、제주도방언は専門でもないので、70,000원という値段では手が出せない。

この『우리말본』を買いますと言ったら、110,000원にまけてくれた。有難き幸せ(もっとも、あとで調べてみると、신고서점で同じ時に刷られたものが、80,000원で売られていた)。カードで払うとき、サインをすると、奥さんが私の名前を見て怪訝そうな顔をするので、日本から来たんですと答えると、目を丸くした。日本人だとは知らなかったというのだ。そういうことを言われると、有頂天になってしまう。

主人に、뿌리서점の主人が、통문관のことをいつもほめていて、ぜひ行ってみるといいと言われていたことを話した。それを聞くと主人はにこりと微笑んで、私も뿌리서점には本を買いに行ったことがあるんですよと答えた。

古本屋が古本屋を回って本を買うことは知っていたけれど、통문관のような老舗もそのようにして本を調達していることを知り、意外な感じがした。しかし、最近は古書がなかなか出てこないのだそうだ。以前は大量に古書が出てきたけれど、最近はアパートに引っ越すときに、本をゴミに出してしまうことが多い。それだけではない。大学教授の家で本を処分するというから行ってみたら、本棚が3台しかなかったという。最近はどこの古本屋でも、そうやって苦労しながら古本を調達しているのだ。本当に大変なことだと思う。

店を出てから교보문고へ行った。インターネットの바로드림で購入した『심의린 편찬, 보통학교 조선어사전』(박형익解説、태학사、2005)が準備できたというので、바로드림のコーナーへ行って受け取った。そのついでに、先ほど見せてもらった빛깔있는 책들の2冊も買った。

 『고인쇄 (빛깔있는 책들 23)』(천혜봉文・写真/손재식写真、대원사、1989)
 『옛책 (빛깔있는 책들 36)』(안춘근文/김종섭写真、대원사、1994)

교보문고の隅々に設置されているコンピュータで探すと、置いてある棚の番号が出てきた。しかし、棚のありかがどうしても見つからなかった。そこで店員に尋ねると、棚の場所をすぐに教えてくれずに、本の名前を聞かれた。理由も分からないまま、「옛책」と答えた。店員は「예책」と入力した。綴り字が違うから、書名が検出されない。そのような本はございませんので、出版社名を教えてください、と言われた。それで、「예」に사이시옷がありますよと答えた。店員は、書名を打ち直し、出てきた本の情報を見て、やっとその棚へ案内してくれた。

帰宅後、教えてもらった本屋の主人の著書を調べてみた。최덕교氏は창조사の社長だそうだ。次の著書がある。

 『한글 성씨 대관』(상조사、1971)
 『한글 성씨 대관』(창조사、1985)
 『한국잡지백년 (전3권)』(현암사、2004)

どれも高価な本で、1971年の『한글 성씨 대관』は40,000원、1985年のは90,000원、『한국잡지백년』は、120,000원もする。ただし、『한글 성씨 대관』は、교보문고のサイトにしか名前が出ていなくて、それも絶版となっている。私の関心分野ではないけれど、幻の本だ。

一方、윤형두氏には、たくさんの著書がある。次のように、ほとんどが自社から出しているけれど、1冊だけ他の出版社から出しているものもある。この分量は、이겸노氏や공진석氏の比ではない。どれから読んでいったらいいのか、途方に暮れるくらいだ。

 『출판물 유통론』(범우사、1990)
 『출판학 원론』(범우사、1995)
 『잠보 잠보 안녕』(범우사、1995)
 『사노라면 잊을 날이』(범우사、1997)
 『눈으로 보는 책의 역사』(안춘근/윤형두編著、범우사、1997)
 『책이 좋아 책하고 사네』(범우사、1998)
 『넓고 넓은 바닷가에』(범우사、2000)
 『아버지의 산 어머니의 바다』(범우사、2001)
 『한국출판의 허와 실』(범우사、2002)
 『옛책의 한글판본』(범우사、2003)
 『산사랑 책사랑 나라사랑』(범우사、2003)
 『한 출판인의 중국나들이』(범우사、2004)
 『한 출판인의 외길 50년』(범우사、2004)
 『한 출판인의 일본 나들이』(범우사、2005)
 『옛책의 한글판본 2』(범우사、2007)
 『한국 출판미디어의 제문제』(범우사、2008)
 『5사상 29방』(좋은수필사、2009)
 『한 출판인의 여정 일』(범우사、2010)

他の店の主人については、インターネットの検索だけではよく分からなかった。時間をかけて、追い追い調べていってみよう。

訪問する前は敷居を高く感じていたけれど、それとは裏腹に、통문관の主人は気さくな人で、知識は豊富でも、決して気難しくなかった。それに、親切にいろいろ教えてくれる。そんなわけで、とても印象のいい店だった。
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by ijustat | 2010-02-02 04:27 | Bookshops


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