『金九自叙傳 白凡逸志』

金九著、集文堂、1994年。ISBN : 9788930302319

c0019613_21151048.jpg市場から姿を消し始めた後でほしくなる本がけっこうある。というより、ほしいと思ったとき、すでにその本が手に入れにくくなっていることが多いのだ。この本もその一つだった。

「白凡逸志」は、日本が朝鮮を植民地支配していたとき、中国で大韓民国臨時政府の主席を務めていた김구の自叙伝だ。当時윤봉길「義士」が上海で投弾「義挙」に成功したとき、その指揮者であった김구は、自分は生きて故国の土は踏めないだろうと覚悟し、朝鮮に残してきた2人の息子のために、遺書のつもりで書いたという。

特にこの本は、タイトルに「親筆을 原色影印한」と冠されている。つまり、김구の手書き原稿だ。韓国のことを理解しようと思ったなら、たとえ歴史に関心の薄い人でも、歴史を証言する生の声に触れておく必要があるだろう。手書き原稿は、その生の声のさらに生の状態だ。だから、ぜひ手に入れたいと思っていた。しかし、そう思うようになってから、この本は長らく入手できなかった。それが、YES24というサイトでまだ売られていることを知り、注文して、今日受け取った。

胸躍らせながら包みを開け、ページを開いた。けれども、喜びは一瞬にして苦悩に変わった。読めない! いや、ぜんぜん読めないわけではないのだけれど、これを読み通すのは、至難の業だ。

その理由は、第一に、分かち書きも句読点も改行もなく、原稿用紙にびっしりと文字が埋めてある。第二に、その達筆な筆跡と自由奔放な綴り字。それだけではない。第三に、最初の数ページは下の部分が腐って失われていて読めない。第四に、全体が残っているページも所々水に濡れて滲んでいる。以前、『声に出して読みたい日本語』というすばらしい本を読んだことがあるけれど、これは、“声に出さないと読めない韓国語”だ。

それでも、この影印本は、鮮明なカラー印刷なので、著者の筆遣いがよく分かるだけでなく、濡れて滲んだ部分や文字のかすんだ箇所も、克明に観察することができる。これは何よりもの救いだ。韓国で出ている影印本は、たいていゼロックスでコピーしたような状態なので、筆遣いが分からず読みにくい。そういうものとは比べものにならない良質の印刷だ。

原稿の保存状態が悪い点について、子息の김신(金信)氏が「後記」で次のように明かしている。

이 影印本을 出版하게 된 동기는 六・二五戰亂 때 전전하면서 保管하다보니 濕氣를 받아 紙面이 번져 文章 自體가 희미해져 가는가 하면 用紙도 六十餘年이나 지난 지금, 날이 갈수록 磨滅되어 가, 永久保存이 어려워 影印本을 出版하기로 하였다. (218쪽)
たとえ保存状態が悪いとはいえ、朝鮮戦争で多くの文献資料が失われた中、「白凡逸志」の直筆原稿が残ったことは、幸いと言わざるを得ない。なぜなら、この原稿が公表されたとき、それまで出ていた多くの「白凡逸志」が、実は原稿を3分の2に縮めたものであったことが明らかになったからだ。

なお、この本は驚いたことに、1994年6月26日に発行された初版本だ。何部刷ったのかは知らないけれど、初版を捌くのに10年以上かかっているわけだ。「白凡逸志」はいろいろな出版社から出ているロングセラーだけれど、その原典ともいえる直筆原稿の影印本は、あまり売れなかったらしい。やっぱり、こういう本を買うのは歴史学者や研究所だけなのだろうか。
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by ijustat | 2010-01-02 21:07 | Books


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