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名著が突っ返された歴史

野口悠紀雄氏の『「超」文章法』51ページには、「歴史的業績に対する最初の評価」という興味深いコラムがある。そこには、歴史的名著が編集者につき返された4人の事例が載っている。

1.ノーベル経済学賞を受けたマルコビッツの論文は、シカゴ大学の博士論文として提出されたとき、「経済学の論文ではない」という理由で却下されかかった。

2.同じくノーベル経済学賞を受けたブラックとショールズの論文は、最初に専門誌に投稿されたとき、却下された。ある有名教授の口ぞえで別の専門誌で審査してもらったが、この内容では経済学の論文にならないというので、論文の本筋とは関係がない追加を要求された。「ブラック・ショールズ式」と呼ばれることになった彼らのオプション価格評価式は、その後、オプション取引と言う一つの産業を作ることになった。

3.フェデックスの創始者フレド・スミスは、エール大学の学生の時、のちの事業のもととなった配達サービスのアイデアを論文に書いて提出した。それに対する経営学の教授のコメント:「アイデアとしては面白い。だが、可以上の成績を取るには、実現可能なものでなければならない」

4.「お気の毒ですが、英語の文章がなってませんな。アマチュアじゃ困るんですよ、キャップリングさん」:これは、ノーベル文学賞を得たイギリスの作家キャップリングの作品に対する雑誌編集者のコメントである。

これは面白い。そこで、そのような事例を集めてみることにした。2週間ばかり探してみたけれど、あまり集められなかった。でも、4つのエピソードが見つかった。

1.明治の日本を創った『西国立志編』の原著、サミュエル・スマイルズの Self-Help, with Illustrations of Character and Conduct の原稿は、最初 Routledge 社に持ち込んだが断られ、『スティーヴンソン伝』を出してくれた John Murray 社から出された。1858年7月のことだ。(渡部昇一「中村正直とサミュエル・スマイルズ」、『西国立志編』講談社学術文庫、1981。p.547-548)

2.『赤毛のアン』は1904年、モンゴメリーが30歳のときに書かれた。その原稿は、3ヵ所の出版社に持ち込んでみたけれど、どこからもいい返事が得られなかった。それで、長いこと屋根裏部屋に放置された。あるとき、存在を忘れていたその原稿をふとした機会から読み返してみると、とても面白かった。そこで再び出版社に持ち込み、1907年にようやく出版された。(http://www001.upp.so-net.ne.jp/meisaku/meisaku/anne/anne_g.html

3.詩人で辞書編纂者の金素雲は、『朝鮮童謡選』と『朝鮮民謡選』(岩波文庫、1933)の原稿を出版するために都内の出版社を回ったけれど、どこからもいい返事が得られなかった。そして、最後にダメモトで持ち込んだ岩波書店でようやく受け入れられ、出版することができた。(『하늘 끝에 살아도』동화출판공사、1968。p.206-209)

4.世界的な大ベストセラーになった J. K. ローリングの『ハリー・ポッターと賢者の石』は、原稿を持ち込んだ出版社からは次々と出版を断られ、1年後の1997年に、ようやく小さな出版社ブルームズベリーから出版が決まった。(http://www.jkrowling.com/
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by ijustat | 2012-02-13 22:36 | Books

残念な『ニューエクスプレス 現代ギリシア語』

火曜日(2012年2月7日)に白水社のサイトで、『ニューエクスプレス 現代ギリシア語』(木戸雅子著、2012年1月27日刊)が出たことを知った。以前の『エクスプレス 現代ギリシア語』をすっかりリニューアルした内容だ。

しかし、喜んだのも束の間。同サイトで公開されているたった4枚のサンプル画像の中に、編集上の間違いがいくつもあって、驚くと同時に、ちょっとがっかりした。

まず、18ページの本文。テキストには Αυτή είναι η βαλίτσα σου;(これがあなたの旅行カバンですか)と単数で出ているのに、挿絵にはカートに載った5つの旅行カバンと1つの手提げカバンが描かれている。ギリシア語では、一つと言っているのに、挿絵は複数だ。ちょっとひどいんじゃないか。たぶん著者は、この挿絵を見て憤然としたに違いない。

それから、同じく本文テキストの Γεια σου.(こんにちは)の下にあるカナ発音が、「ヤス」ではなく「ス」になっている。ちょっとした誤植だけれど、本文にあるので目立つ。

読みの間違いは、33ページの「表現力アップ」にもあった。そこでは、数字5の読みが、「ペンデ」でなく「ペンゼ」になっていた。πέντε というギリシア語が書かれていたら、間違えなかったのかもしれない。でも、そこには数字の「5」だけが書かれていたので、編集者が間違いに気づかなかったのだろう。

極めつけは、そのすぐ下にある2文だ。これはひどい。

「このメロンは甘いですか」に当たるギリシア語に、Πόσο κάνουν όλα αυτά;(全部でいくらですか)が当てられていた。そして、続く「全部でいくらですか」にあたるギシリア語が、Που είναι το φαρμακείο;(薬局はどこですか)になっていた。

ここまで間違いが多いと、何だか校正刷りを読んでいるみたいだ。

この教材は、見るとテキストの本文も実際的でいいし、語彙力アップや表現力アップで扱われている語彙や表現も、使ってみたいものばかりだ。きっと、続く内容も、魅力的に違いない。それにもかかわらず、こんなに間違いがたくさんある。これでは、この教材を手元に持っていたいという気が起こらない。

手元にある他のエクスプレスシリーズを見てみると、このシリーズは、どうやら誤植があっても再版時に直さないようだ。でも、これはちょっとひどすぎる。次に刷るときは、ぜひもう一度、誤植の修正をしてもらえればと思う。
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by ijustat | 2012-02-11 17:43 | Greek