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고구마

2010年6月5日、土曜日。日差しも傾いてきた午後5時頃、急に고구마という古本屋へ行ってみようと思い立った。木曜日に이상한 나라의 헌책방へ行ったとき、主人の윤성근氏が勧めてくれた。彼は以前고구마に勤めていたそうだけれど、そこは蔵書数が40万冊にもなる大きな古本屋だと教えてくれたのだ。

c0019613_2332291.jpgインターネットで고구마のサイトに入り、住所を調べ、Google の地図で位置を確認した。すると、だいぶ奥まった裏通りにある。何か変だと思い、サイト内にあった「찾아오시는 길」を見ると、ずいぶん違うところにある。それで、Google には従わず、고구마サイトの住所に従って行くことにした。신금호の1番出口を降りて청구方面へ150メートルほど歩くと、左側にある。

サイトには売り場がいくつかあると出ていたけれど、本当に売り場が分散していた。最初の売り場は閉まっていた。次の売り場は雑誌中心のようだ。3番目が、一般書のありそうな売り場だった。そして、入り口は뿌리서점のように地下へと続く階段になっていて、右側の壁一面は本になっていた。

地下に降りると、入り口付近に若干の空間がある他は、書棚がぎっしりと詰まっている。そして驚いたことに、書棚に挟まれた通路が恐ろしく狭い。

その点について、최종규氏は2004年3月30 日付けの「헌책방 나들이」で、「아주 좁은 골마루를 누비며 책을 구경합니다」(http://www.ohmynews.com/NWS_Web/view/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0000178193)と描写している 。この「아주」という言葉を、実際に고구마を訪れたことのない人は読み過ごしてしまうに違いない。あるいは、「아주 좁은 골마루」にしても、「누비다」にしても、誇張表現と取る人もいるかもしれない。しかし、최종규氏はまったくありのままの描写をしているのだ。

『이상한 나라의 헌책방』の著者、윤성근氏は、2004年頃から2007年頃まで고구마で働いた。彼も、売り場の様子について次のように描写している。

금호동 책방은 규모가 어마어마했다. 지하에 있는 서가는 입이 딱 벌어질 만큼 입구부터 책이 가득 들어차 있었다. 헌책방은 일반 서점과 달리 구조부터 사람이 아니라 책 위주로 되어 있다. 바닥부터 천장까지 책이 빽빽하게 들어차 사람이 다닐 수 있는 길은 폭이 고작 30센티미터 정도여서 체격이 큰 사람은 서가 사이로 걸어 다닐 수도 없다. (『이상한 나라의 헌책방』윤성근著、이매진、2009。31쪽)
ここで윤성근氏が「규모가 어마어마했다」と述べているように、入り口で書架を眺めているだけでは奥行きがどうなっているのか見当がつかない。見ると、目の前の書棚に배치도(配置図)があった。それによると、私が関心のある韓国語関係の本は、入り口のすぐ右側にある。

そこで、韓国語関係の棚を一通り見たあと、勇気を出して店内の通路を回ってみた。狭い。気をつけて歩いても本が体に当たる。洞窟探険さながらだ。何が違うかといえば、電気が点いていて明るいという点だけだ。

いちばん奥の中央に、上へ出る階段があった。扉は閉じていて、その上に防犯カメラが付いている。階段の両脇にある本は、多少古めのものが多く、魅力的に見えた。

一通り回ってみて分かったのは、この店の本はすべて本棚に寝かせてあるという点だ。下にある本は、上の本を持ち上げて取らなければならない。見た本は元に戻すように書かれているので、けっこう大変だ。

それから、わりと整理がよく出来ていて、しかも通路には本の山がほとんどない。もっとも、幅が30センチしかない通路に本の山を築いたら、通路は詰まってしまう。

店員が1人で忙しく動き回っていた。私の他には女性客が1人いて、選んだ本を持って出てきたけれど、店員が見つからないので、置いて帰ろうかしらと言った。そこで私が大きな声で、売り場のどこかにいる店員を呼ぶと、出てきた。それで女性は本を買うことができた。私は店にささやかな貢献をしたわけだ。

私も自分の選んだ本を買った。それは以下の通り。2冊で5,000원だった。

 『應用 펜毛筆書体寶典』(鄭周相著、英崙社、1956。初版本)
 『조선성구집』(엄병섭・김현욱著、사회과학출판사、1989。複製本)

本を持っていくと、店員が中央の少し広くなった場所にあるパソコンで、書名を検索した。そこで値段を確認し、さらに、その本がすでにインターネットで決済されていないかどうかも確認したうえで、客から本代を受け取る。

店員に、いつから働いているんですかと尋ねると、10ヵ月になるという。店員は合計8人いるそうだ。その中には書誌情報の入力を専門にする人もいる。確かに大きな古本屋だ。

会計を済ませ、階段を上りきったところで主人に会った。이상한 나라의 헌책방でこの店のことを聞いて来ましたと言って、挨拶をした。しばらく話すと、ひょっとしてどこか外国に住んでいらっしゃったんですかと言う。はい、日本から来ましたと答えると、じゃあ日本の方ですかと聞くので、そうですと答えた。主人は、今から食事に行くのだけれど、一緒に食事でもどうですかと言った。せっかく日本から来たのだからというのだ。少し戸惑ったけれど、ありがたくご馳走をいただくことにした。

最初の売り場の左脇にある食堂に入った。そこで순두부백반をご馳走になった。さっき私と話をした店員も一緒だった。そこで主人といろいろな話をした。

私は去年から古本屋に関心を持ち始め、ソウル市内の古本屋を巡り歩いているのだという話をした。そのときたくさんの古本屋の情報を提供してくれているのが、최종규氏が「오마이뉴스」に書き続けている記事だ。今年の2月末に인천の배다리골목にある최종규氏の사진책 도서관で初めて최종규氏に会ったけれど、ずいぶん寡黙な人でしたと言うと、そうですか、あの人はとても主張の強い人ですよ(주장이 강한 사람이에요)と言った。

최종규氏の話から、한겨레신문の임종업記者の話に移ると、主人は多少苦い表情になった。한겨레신문では고구마を“헌책방”に入れないのだという。私が目を丸くして、なぜですかと訪ねると、彼らは進歩的な傾向が強く、その基準によると、自分の店は“헌책방의 기득 세력(古本屋の既得勢力)”になるのだという。だから、「헌책방 순례」が書かれていたときも、고구마へは取材にすら来なかったそうだ。

それから主人は、日本人の仕事の緻密さについて、一緒にいた店員に話した。その例として、『일본 고서점 그라피티』(이케가야 이사오著 / 박노인訳、신한미디어、1999)の話をした。その本では、1軒1軒の店の詳細図が描かれていて、棚のどこにどんな本があるかまで分かるといって驚いていた。

それから、韓国には外国語学習書で、この1冊を納めれば大丈夫といった定評ある本がないと言った。そして、日本には、ドイツ語の学習書で60年近く経っていて、まだ売れ続けている本があるといった。主人が私に、ご存知ですかと聞くので、ええ、関口存男(せきぐち・つぎお)という人の本ですと答えると、また店員に、ほら、こんなに有名なのだと言った。そういう本が韓国でも必要だと言った。

主人の言ったドイツ語学習書とは、『初等ドイツ語講座(全3巻)』(橘書店、1933年。後に三修社から出される)のことだ。これは現在『関口・初等ドイツ語講座』(三修社)の名で出ている。韓国では『新獨逸語大講座〔合本〕』(關口存男原著 / 李三顯・李炳璨訳補、博英社、1957)の名で出ている。

食堂を出て店に戻り、コーヒーをご馳走になった。コーヒーといっても、韓国ではスティック入りのインスタントコーヒーだ。主人は浄水器で熱湯を注ぎ、スティックの袋でかき混ぜた。主人が、こんなやり方でも大目に見てくださいと言ったけれど、実はこの方法は以前、私が自分で発明した秘密の方法だと思っていたのだった。あとで知ったのだけれど、かなりの人たちが私と同じことをしていた。

主人と店員と3人で古本屋の話をした。고구마の売り場の構造が뿌리서점と似ているというと、主人もそれを認めた。ただし、뿌리서점はインターネットでの販売をやっていない。以前、뿌리서점の主人に勧めたことがあるけれど、それはできないと言っていた。今考えてみれば、確かに今からインターネット事業に加わるのは無理だろう。別の付加価値で勝負するしかない。

近くで子供たちが遊んでいた。そのボールが道に転がっていってしまい、向こう側に駐車している車の下に入り込んでしまった。子供がボールを取ろうとしたけれど、道路の中央には柵があって、向こうへ渡れない。それを見ながら、子供たちが遊べる空き地がないのは本当に危ないことだという話をした。主人が子供たちに、危ないからあっちへ行きなさいと注意した。

それから車社会の話になった。私は韓国へ来る前は、韓国ではソウル市内を自転車で見て回ろうと思っていた。けれども、実際に来てみると、とてもじゃないけれど自転車を乗り回せるような環境ではないことが分かった。のちに私も車を運転するようになり、そのおかげで運動不足で困るようになってしまった。去年、이명박大統領が、韓国を自転車大国にしてみせると宣言して私はとても喜んだ。けれども、교보문고には駐輪場がない。案内の人に、いつごろできるかと聞くと、駐輪場を設ける計画はないと言われた。최종규氏はそんな中でも、ソウル市内を自転車を乗り回しているそうだ。そんな話をした。

すると主人は、彼は度胸者(강신장)だと言った。충주まで自転車で行って来るし、충주から인천までも自転車で移動するという。韓国の道路はかなり危険であるにもかかわらず、そのような長い道のりを自転車で走り続けるとは、驚くべきことだ。それに、その強靭な体力!

私たちが話をしていたとき、家族連れが通りがかりにやってきて、娘に『그리스 로마 신화』というシリーズの漫画本から1冊を買ってあげていた。さっきの店員が相手をした。それは微笑ましい姿だった。

恰幅のいい女性が、同じ位の歳の痩せた女性と一緒に歩いてきて、今回성동구の区長(구청장)に当選した挨拶に伺いましたと言った。私がおめでとうございますと言うと、その女性は喜んで私に握手を求めた。女性が主人にもお辞儀をすると、主人はハンナラ党ですね、しっかり反省してくださいよ、と言った。今回の総選挙で、ハンナラ党は国民にそっぽを向かれ、惨敗したのだった。区長の当選者は主人の話をしんみりと傾聴していたけれど、とても聞きにくそうな表情だった。私は内心、あれじゃ駄目だな、と思った。主人は当選者に辛口の話ししかしなかったけれど、当選者が立ち去るときには「건강하세요」と挨拶をした。

20時59分に妻から電話があった。買い物に行くから帰ってくるようにとのことだった。そこで、店先の椅子に立てかけてあったかばんを取ろうとして振り向き、高さ10センチほどの段差の上に足をかけたとたん、右足のふくらはぎが攣った。

私が段差の上に座り込んで右脚をさすっていると、主人が来て、私のふくらはぎをマッサージしてくれた。そこへ来た男性客が、爪先を手前に引くといいと言うので、主人は私の爪先を手前にグイグイと引いた。すると、攣りがだいぶ治まった。それから主人は20分ぐらい、献身的にふくらはぎのマッサージをしてくれた。おかげで痛みも引き、歩けるようになった。

そのあと、売り場に下りて、先ほど目をつけておいた2冊の本を買った。9,500원だった。

 『國語學資料選集 I』(國語學會編、一潮閣、1972。1979年重版)
 『國語學資料選集 IV』(國語學會編、一潮閣、1973。1982年重版)

店員が、さっきブログをやっていると聞きましたけれど、住所を教えてもらえませんかというので、紙に書いてあげた。私も店員に名前を尋ねた。이중완氏という。まじめで感じのいい青年だ。

店を出ると、主人は右隣の구멍가게の前に出してある椅子にもたれて座っていた。私を見ると立ち上がってやって来た。主jんと握手をしてお礼を言い、청구駅へ向かった。

고구마の住所は、서울시 성동구 금호동2가 10-2。ホームページには「금호2가」と出ているけれど、ひょっとしてと思い、Google で「금호동2가」と入力してみたら、正しい場所が表示された。電話番号は、02-2232-0406。ホームページは、 www.goguma.co.kr
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by ijustat | 2010-06-06 22:52 | Bookshops